Lost Technology

レトロPC、レトロゲーム、チップチューン等の主に技術的な雑記

MSX互換機の世界(その1)

思わず「MSX互換機ってMSXそのものじゃないんかい!」と突っ込みたくなるようなタイトルだが、MSX規格はそもそもは「基本的なハードウェアコンポーネントBIOSのみ策定しておけばソフトひとつで各社独自に発売していたホームコンピュータ上で動くようになるじゃん」という、ソフトウェア視点の規格だったのである。
VDP以外のI/Oポートを直接操作することは禁止されていたり、VDPのI/Oポートアドレスを決め打ち禁止されていたりしたのも、「I/Oポートとかがリファレンスデザインから外れててもBIOSで吸収できる」という目的のため。
ところが実際には、ほとんどの参入メーカーがほぼリファレンスデザイン通りのハードウェアを設計した上で、独自ハードウェアやソフトウェアを内蔵したり、専用のオプションを用意したりすることで競争していた。
そのため、多少規格に違反したソフトでもほとんどが動いてしまい、結局はそれが以後の上位規格でハードウェアの多様性を狭める原因にもなっていたのではないかと思っている。
というわけで、ここではリファレンスデザインから外れてたりするようなマシンを「MSX互換機」と呼ぶことにする。
なにしろリファレンスから外れていてある意味面白いので、これから数回に分けて紹介していくことにする。
まず第1回はスペクトラビデオ編。

SVI-328+SVI-606

この記事で「謎のメーカー」呼ばわりされてしまったスペクトラビデオ*1のSVI-318/328/318mkII/328mkII*2は、そこにも書いてあるようにMSXの前身と呼べる物である。MSX-BASICの初期カラーとかフォントとかはここから来ている。同じMS-BASICということで、中間言語コードにもある程度の互換性もある。*3
で、そのSVI用のオプションとして「SVI-606 MSX GAME ADAPTOR」なるものが存在したのである。
SVIにこれを装着すると、MSX仕様のカートリッジスロットが1本付いていて、16KBまでのROMカートリッジが使用できる。
しかし、CPUとVDPとRAM(32KB)以外のSVIのリソースはMSXとしては使えず、データレコーダーを本体からアダプタにつなぎ替えなきゃいけなかったり*4、ジョイスティックも本体からアダプタにつなぎ替えなきゃいけなかったり*5、本体のキーボードが使えなくなったり*6、32KB ROMが使えなかったり*7と、あんまり使い勝手は良くなかった。
参考:(SVI-606マニュアル)http://www.samdal.com/SVIDOCS/SVI606UsersManual.pdf

なもんで、週アスの記事では

SV-318、およびその後継機であるSV-328はMSXとの互換性はありませんでしたが、1984年に発売されたSV-728によって、スペクトラビデオは正式にMSX参入メーカーとなりました。

とあるが、実はSVI-318の時点でMSX Compliantをうたった広告を打っているのである。(↓の記事の真ん中へん)

MSX History : GENESIS

ちなみに、SVIには「SVI-603 COLECO GAME ADAPTOR」という、コレコビジョンのゲームができるアダプタもあったりする。

SVI-838

SVI-728/738と、リファレンス通りの平凡なMSXを出してかえって凋落してしまったスペクトラビデオの最後の製品。
なんと、IBM PCMSX2の両互換機である。日本で言うならテラドライブとかPC-88VAに似たアーキテクチャである。

Spectravideo SVI-838

一般的な両用機*8のように物理的な切り替えスイッチがあるわけではなく、GW-BASICというPC DOS上のアプリケーション*9を起動することで、MSX2とソフトウェア互換になるというもの。GW-BASICを介してFDDやCGAといったIBM PCとしての本体リソースにもアクセスが可能。IBM PCのCGAとV9938はスーパーインポーズ接続されている。
MSX2としてのハードウェアコンポーネントは、V9938、Z80、PSGが搭載されているが、IBM PCの8088からは直接操作することはできない。
MSX仕様のスロットコネクタは標準装備ではなく、オプションのSVI-811 MSX ADAPTORによって増設され、これにはMSX-BIOSがROMで搭載されていて、MSX1ROMカートリッジならだいたい動く。というか、MSX2互換機なのにROMカートリッジはMSX1しか動かないのである。
なお、IBM PCバスではなくSVI-318/328仕様の増設スロットを1基搭載している。
現在の目で見ても相当なオモシロ変態マシンと言える。
その2に続く

*1:なお、Spectravideoの創業者はHarry Foxであるが、は~りぃふぉっくすとの関連は不明。

*2:以下、SVIとする。

*3:ただし、2項演算子のコードがズレてて、MSXで"A+B"としていたプログラムをSVIで読むと"A-B"になってたりする。予約語のコードはだいたい一致している。

*4:SVIとは変調方式が違うので、MSXのカセットは読めなかった。

*5:SVIのジョイスティックはピュアATARIなので1ボタン。

*6:本体キーボードの代わりに、ポケコン並のキーがアダプタ上に直接載ってる。

*7:SVIのメモリバンクは32KBずつの切換なので、MSXで一般的だった4000H-BFFFHの32KB ROMカートリッジは動かなかった。また、ディスクドライブなどのハードウェアを接続することもできない。

*8:そもそも両用機自体があまり一般的でないけど、想定してるのは98DOとかX1twinとか。

*9:MSX-BASIC 2.0上位互換。