MSX互換機の世界(その2)
前回はSVI-838という変態両用機で終わったので、第2回はその流れを受けて両用機編ということで。*1
Patisonic Ateste520EX
メーカー名*2や製品名からしてものすごくパチモン臭いロシア製のAmstrad CPC互換機。
Алеста (компьютер) — Википедия
Aleste 520EX
Aleste 520EX - CPCWiki
Amstrad CPCというのは欧州で人気のあった8bitマシンで、Z80CPUと6845系CRTCを搭載するなど、日本のP6に似た構成である。
欧州では主に業務用アプリケーションを動かすのによく使われたらしい。
MSXでも動くZ80用汎用マルチタスクOSであるSymbOSはCPCが発祥。
で、このAleste*3はそのAmstrad CPCクローンにMSX2エミュレーションモードを追加したものである。
ロシアでは完成品の他に、自作キットでも売られた模様。
MSX2を特徴づけるVDPは、V9938そのものが実装されているわけではなくカスタムチップによるエミュレーションで6845のパラメータを操作することで実装されている。
そのほか、GameBIOSというMSX2互換BIOS、パッチが施されたMSX-DOSが提供され、それらのソフトウェアによってMSX2との互換性をうたっていたようだ。
が、どうもMSX2用のバイナリがそのまま動くというわけではなく*4、MSX2互換BIOSとゲームのイメージファイルをRAMに読み込んだうえ、必要に応じてゲーム本体にいくらかのパッチを施すことで動かしていたようだ。いくつかのゲーム*5については、Ateste用パッチ適用済みのイメージが今でも出回っている。*6
ところで、オリジナルのCPCにしてもAlesteにしても、情報そのものは結構あるのに日本からのアクセスがブロックされてるケースが結構あって調べるのに苦労した。日本であまり知られていないのはこうした事情が関係しているかもしれない。*7
Sakhr/Al-Alamiah AX-330
Sakhr*9はクウェートの会社で、中東向けに日本のMSXをローカライズして販売していた販売会社である。Al-Alamiah*10は、その関連会社で実際の開発を行っていたと思われる。*11
前項のAlesteは真っ黒の海賊版だったが、Sakhrは少なくともMSXのローカライズ販売に関してはライセンスを受けていると思われる。
Category:Sakhr/Al Alamiah - MSX Wiki
上記のように、ほとんどが日本のMSX*12だが、ごく一部独自開発と思われるマシンがある。
そのうちのひとつがAX-330である。
MSX AX-330 with built-in Nintendo hardware ...!! | MSX Resource Center (Page 3/7)
なんと、NESとMSX1の両用機である。
一部では「メガドライブとMSXの両用機」とも伝えられるが、上記フォーラムの分解写真を見る限り確かにNESであるようだ。
もしかしたら、GAME部分がメガドライブのものとNESのものがあるのかもしれないが、情報が乏しくてよくわからない。
MSX部分はAl-Alamiah独自開発のAX-230とほぼ同一であるようだ。*13
アスキーのメガROMコントローラを搭載していて、コーランを含むいくつかのソフトが内蔵されている。
Sakhr/Al-Alamiah AX-660/AX-990
Sakhr/Universal/Al Alamiah - AX-660 | Generation MSX
Sakhr/Universal/Al Alamiah - AX-990 | Generation MSX
こちらは本当に「メガドライブとMSXの両用機」である。一部では「キロドライブ」などと呼ばれているらしい。
AX-660とAX-990の違いは、内蔵ソフトの有無と思われる。(990は330と同様メガROMコントローラ内蔵)
MSXマガジン永久保存版3で紹介されたときは、メガドライブのZ80部分がMSXになるもんだとばかり思っていたが、分解写真を見ると、AX-330と同様にMSX部分とGAME部分が完全に分かれている。メガドラ側の回路は1chip化されておらず、MC68000とZ80がそれぞれ生で載っている。
MSX1なのにV9958が載っているのは、発売時期(1993年頃)にはもうTIがVDP事業から撤退していてTI製のVDPが入手できなかったからではなかろうか。*14
ちなみに、AX-330/660/990はいずれも、NESないしメガドライブを表す言葉はどこにも書かれていない。MSX的には白だけどニンテンドーやセガ的には黒に近いグレーのような感じ。*15
ところで、Al-Alamiarのアラブ版MSXはすべてMSX1である。これはおそらく、アラビア語サポート用の拡張機能*16の一部がMSX2の公式のアップグレードと競合してしまっていて、アラビア語版MSX2BIOSが開発できなかったからではないかと思われる。*17
*1:まあ、両用機という時点でたいがい変態マシンではあるのだが。
*2:「Pati」に日本語で「偽物」というニュアンスがあることを知っていてつけたのかどうかは不明。
*3:無論、「アレスタ」と発音する。MSX2版アレスタが動作するのかは不明。
*5:王家の谷、エルギーザの封印、ガリウスの迷宮、悪魔城ドラキュラなど。
*7:この点については外資系の会社に勤務しててよかったと言わざるを得ない。
*8:MESSでエミュ実装されてるので興味のある人はゲフンゲフン
*9:ザカールと読むのかしら。
*10:アル・アラミアーであってるはず。
*11:アラビア語版MSX-BASICには、「Microsoft & Alalamiah」というクレジットが表示される。日本におけるアスキーのような立場かもしれない。
*13:筐体デザインを見ると、三洋のWAVY2やWAVY23と同じように見えるが、スロットが1つなのでWAVY2/23に似せて新規開発したものと思われる。
*14:AX-330の分解写真ではシルクが削られているが、パッケージからV9938またはV9958であると思われる。
*15:Al-Alamiahの独自開発機は、いずれも台湾で製造されているようなので、NES/MD互換部分に関しても台湾のアレ
*16:どうも、Al-Alamiahがあとから勝手に拡張したっぽい形跡がある。
*17:実は他の言語でもこうした例はある。韓国語サポートとか。